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東京高等裁判所 平成5年(行コ)139号 判決

東京都台東区鳥越二丁目一四番五号

控訴人

宗教法人信入院

右代表者代表役員

渡辺一雄

右訴訟代理人弁護士

長谷川正浩

東京都台東区蔵前二丁目八番一二号

被控訴人

浅草税務署長 中田加津三

右指定代理人

山田知司

柳井康夫

村山文彦

右指定代理人

緑川哲

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が平成元年三月二八日付けで控訴人に対してした、控訴人の昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度に係る法人税の更正のうち、所得金額七三九万二四七六円、納付すべき法人税額二〇六万九七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  控訴費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

控訴棄却

第二当事者の主張(借地権付建物の売買による収入に関する後記第三掲記の当事者双方の主張を除く。)

一  請求原因

1  控訴人の法人税申告

控訴人は、昭和六二年五月二六日、昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税確定申告をした。所得金額を七三九万二四六六円、納付すべき法人税額を二〇六万九七〇〇円として申告したものである。

控訴人は、右確定申告に当たり、不動産貸付業に係る収入金額につき、別紙一記載のとおり、課税の対象となるものとならないものに区分した上で、収益事業に係る所得金額を算出したが、以下のものを非課税所得に係る収入金額として、申告所得金額の計算から除外していた。

(一) 本件地代収入

控訴人所有で筒井幸江(以下「幸江」という。)に賃貸していた東京都台東区鳥越二丁目九番五所在の宅地(登記簿上の地積三〇七・二七平方メートル、以下「本件土地」という。)のうち、二五六・一九平方メートル(以下「乙土地」という。)の地代収入金額一四四万円(別紙一の順号1及び2の地代、以下「本件地代収入」という。)

(二) 本件差額収入

控訴人は、本件土地のうち、五一・二三平方メートル(以下「甲土地」という。)をバウルー株式会社(以下「バウルー」という。)に賃貸していたが、いずれも昭和六一年四月三日、バウルーに四二〇〇万円を支払って甲土地についての賃貸借契約を合意解除するとともに甲土地上のバウルー所有の建物(以下「バウルー建物」という。)を買い取り、また、幸江に二億三〇〇〇万円を支払って乙土地についての賃貸借契約を合意解除するとともに乙土地上の筒井所有の建物(以下「筒井建物」という。)を買い取る旨の契約を締結した。

そして、控訴人は、右同日、株式会社島崎工務店(以下「島崎工務店」という。)から三億七〇〇〇万円(以下「本件一時金」という。)の支払いを受けて、島崎工務店との間で、本件土地につき建物所有を目的とする賃貸借契約を締結するとともに、島崎工務店に対し、バウルー建物及び筒井建物を転売した。

三億七〇〇〇万円から四二〇〇万円及び二億三〇〇〇万円を控除した差額は九八〇〇万円であり、これを本件差額収入という。なお、これからさらにこれに対応する経費三九七万七六三〇円を差し引いた九四〇二万二三七〇円が資産売却収入として別紙一の順号6に掲記されている金額である。

2  更正処分等の経過

被控訴人は、控訴人が収受した本件差額収入は、課税対象となるべき不動産貸付業に係る収益金であると認定して、平成元年三月二八日付けで所得金額を六七四二万三七九〇円、納付すべき法人税額を一八八七万八四〇〇円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税を一五七万六五〇〇円とする過少申告加算税賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。

控訴人の本件事業年度に係る法人税の申告及び更正等の経過は、原判決の別表一記載のとおりである。

3  しかし、本件更正及び本件賦課決定は違法であるから、控訴人は、被控訴人に対し、本件更正のうち、所得金額七三九万二四七六円(申告に係る所得金額七三九万二四六六円には一〇円の計算誤りがあったので、七三九万二四七六円を超える部分の取消を求める。)、納付すべき法人税額二〇六万九七〇〇円を超える部分及び本件賦課決定の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2項の事実は認める。

三  抗弁

1  本件地代収入について

(一) 地代の収受

筒井建物の売買契約が締結された昭和六一年四月三日から幸江が筒井建物を明け渡した昭和六二年二月二八日までの間の乙土地の地代(月額一二万円)は、幸江が支払っていたが、筒井建物の引渡に伴い、控訴人と島崎工務店との間において昭和六二年二月二八日付けで土地賃貸借契約書が作成され、同年三月一日以降は島崎工務店が本件土地の地代を支払うことになった。

控訴人は、本件事業年度中に、乙土地の地代として、筒井から一三二万円、島崎工務店から一二万円、合計一四四万円を収受したにもかかわらず、収益事業に係る収益の額に算入しなかった。

(二) 公益法人が営む不動産貸付業に係る課税

公益法人等に対しては、各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得についてのみ法人税を課することとされている。収益事業とは、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいい(法人税法二条一三号)、法人税法施行令五条は、右事業として、不動産貸付業その他(いずれもその性質上その事業に付随して行われる行為を含む。)を定めている。

右施行令五条一項五号は、不動産貸付業のうち同号イからチに掲げるもの以外のものを収益事業とする旨定めており、同号へは、「主として住宅の用に供される土地の貸付業で、その貸付けの対価の額が低廉であることその他の大蔵省令で定める要件を満たすもの」が収益事業たる不動産貸付業から除外される旨定めている。

「主として住宅の用に供される土地」であるか否かについては、〈1〉その床面積の二分の一以上が居住の用(貸家住宅の用を含み、別荘の用を除く。)に供される家屋の敷地として使用されている土地であること、〈2〉その土地の面積が当該家屋の床面積の一〇倍に相当する面積以下であること、のいずれの要件をも満たしているものであるか否かによって判定することとされている(法人税基本通達15-1-20)。

(三) 本件地代収入と収益事業に係る収益

控訴人は、本件地代収入を、「主として住宅の用に供される土地の貸付業」に係る収入金額として、収益事業に係る収益の額に算入しなかったものであるが、以下のとおり、これは誤りである。

筒井建物は二棟であるが、その利用状況は次のとおりであった。

(1) 家屋番号九番五の一の建物

二階建で合計床面積は二〇三・八二平方メートルであるが、その全部がハンドバッグ、鞄、小物袋類の製造販売業を営む株式会社筒井商店(以下「筒井商店」という。昭和六一年八月三一日に筒井株式会社と商号変更された。)に賃貸され、筒井商店の事業の用に供されていた。

(2) 家屋番号九番五の二の建物

二階建で合計床面積一九三・六一平方メートルの建物であり、その大部分が幸江らの家族の居宅として使用されていたが、その一部(右(1)の建物に隣接する三室で、合計床面積は四七・八五平方メートル)は筒井商店の事業の用に供されていた。

したがって、筒井建物の総床面積の二分の一を超える部分が事業の用に供されていたものであり、乙土地の賃貸が「主として住宅の用に供される土地の貸付業」に該当しないものであることは明白である。

また、島崎工務店も事業の用に供する目的をもって、乙土地を賃借したものである。

2  本件差額収入について

(一) 筒井建物及びバウルー建物の売買取引の内容

この一連の売買取引は、以下のとおり行われた。

(1) 控訴人と幸江との間の取引

幸江は、老朽化した筒井建物の建て替えを計画し、控訴人に対し、乙土地の買い取りを申し入れたが、控訴人はこれを拒否し、堅固な建物を建てるならば一億円以上の建替承諾料を支払うようにと要求した。そこで、幸江は、借地権を譲渡して別の土地へ移転することもやむをえないと考え、控訴人に借地権譲渡の承諾を求めた。控訴人は、借地権を譲渡するのならば、買い手は控訴人が探す、控訴人を通さなければ借地権の売買はさせないと拒否したため、幸江は、控訴人のいうがままに借地権を譲渡せざるをえないこととなった。

控訴人は、幸江に代わる新借地人として島崎工務店を探し出し、〈1〉控訴人が幸江から筒井建物を借地権付きで買い取り、次いで〈2〉右借地権付筒井建物を控訴人から島崎工務店に売却するという法形式を採って、借地人の交代を図ることとした。結局、筒井建物は二億三〇〇〇万円で控訴人に買いたたかれてしまった。

右売買代金は、いずれも、島崎工務店取組の銀行保証小切手又は島崎工務店振出の小切手で支払われた。

なお、筒井建物を低く買いたたかれたことに承服しかねた幸江は、島崎工務店に対し立退料の支払を要求し、「引越費用」の名目で二〇〇〇万円の支払を受けることになった。

(2) 控訴人とバウルーとの間の取引

バウルーは、借地権を譲渡しようと企図して控訴人に譲渡についての承諾を求めたが、控訴人から、控訴人で買って売り先を探すから売るならば控訴人に売ってほしいと要求されたため、幸江と同様な経過をたどって、控訴人のいうがままにバウルー建物を借地権付きで譲渡せざるとえないこととなった。

売買代金は四二〇〇万円であり、島崎工務店の事務所で、同社取組の銀行保証小切手及び現金をもって支払われた。

(3) 控訴人と島崎工務店との間の取引

控訴人と島崎工務店との間の借地権付建物の売買契約における売買代金は三億七〇〇〇万円であるが、この売買代金には、条件変更料・堅固な建物の建替承諾料(控訴人と幸江との賃貸借契約では、賃貸借の期間は昭和五二年四月一日から二〇年間とされ、控訴人とバウルーとの間の賃貸借契約では、賃貸借の期間は昭和四七年七月一日から二〇年間とされていたが、控訴人と島崎工務店との間の契約期間は四〇年間となっている。)及び名義書替料(島崎工務店の新築建物の一回の売買に係る名義変更料)も含まれるとされており、また、島崎工務店が新築した建物を第三者に譲渡するについては、名義変更料は無償とする旨の合意がされている。

(4) 島崎工務店がした借地権付建物の売買取引

島崎工務店は、筒井建物及びバウルー建物を取り壊し、本件土地上に三棟の建物を新築し、一棟を昭和六二年九月三〇日に株式会社丸東(以下「丸東」という。)に借地権付きで売却し、他の一棟を昭和六三年一二月二三日に株式会社トーワ建工(以下「トーワ建工」という。)に同じく借地権付きで売却した。

これに伴って、控訴人と丸東との間及び控訴人とトーワ建工との間で、それぞれ土地賃貸借契約書が作成されたが、島崎工務店あるいは丸東、トーワ建工から控訴人に対して、借地権譲渡の承諾料が支払われた事実はない。

(5) 以上の取引の実質的目的

控訴人のした本件土地上の借地権付建物に関する以上の一連の売買取引は、その法形式のいかんにかかわらず、実質的には、賃借人の交代を図って、新賃借人たる島崎工務店から、〈1〉堅固な建物を建築するための承諾料、〈2〉島崎工務店が丸東らに対して借地権を譲渡することに係る承諾料を収受する目的をもってされたものである。

右承諾料は、土地賃貸借に係る条件の変更(普通建物所有の目的から堅固な建物所有の目的への変更)及び賃借人の交代(島崎工務店から丸東らへの交代)に係るものであるから、貸付けに係る更改料に該当する。

(二) 権利金その他の一時金に係る課税の取扱い

公益法人等が固定資産である土地又は建物の貸付けをしたことにより収受する権利金その他の一時金の額については、次のように取り扱うこととされている(法人税基本通達15-2-11)。

(1) その土地の貸付けにより法人税法施行令一三八条一項(借地権の設定等により地価が著しく低下する場合の土地等の帳簿価額の一部の損金算入)の規定に該当することとなった場合におけるその貸付けにより収受する権利金その他の一時金の額は、土地の譲渡による収益の額として、「収益事業に属する固定資産の処分損益(法人税基本通達15-2-10)」に係る取扱いによる。

すなわち、公益法人等が収益事業に属する固定資産等を処分したことによって生じた処分損益は、収益事業に附随する行為から生じた損益として、原則として収益事業に係る損益となるのであるが、次に掲げる損益については、これを収益事業に係る損益に含めないことができることとして取り扱われている(法人税基本通達15-2-10)。

〈1〉 相当期間(少なくとも一〇年以上。)にわたり固定資産として保有していた土地(借地権を含む。)、建物又は構築物につき譲渡(施行令一三八条一項(借地権の設定等により地価が著しく低下する場合の土地等の帳簿価額の一部の損金算入)の規定の適用がある借地権の設定を含む。)、除却その他の処分をした場合におけるその処分をしたことによる損益

〈2〉 〈1〉のほか、収益事業の全部又は一部を廃止してその廃止に係る事業に属する固定資産につき譲渡、除却その他の処分をした場合におけるその処分をしたことによる損益

(2) 土地又は建物の貸付けに際して収受する権利金その他の一時金で右(1)に該当しないものの額及び土地若しくは建物の貸付けに係る契約の更新又は更改により収受するいわゆる更新料の額は、不動産貸付けに係る収益の額とする。

(三) 本件差額収入の取扱い

前記のとおり、本件差額収入は貸付けに係る更改料に該当するから、不動産貸付業に係る収益の額に含まれるものであることは明白である。

3  控訴人の所得金額

控訴人の本件事業年度の所得金額は、次のとおりとなる。

(一) 加算項目

(1) 借地権等売買差益計上もれ(本件差額収入) 九八〇〇万円

(2) 賃貸料収入計上もれ(本件地代収入) 一四四万円

(3) 所得金額計算誤り 一〇円

(4) 寄付金の損金不算入 六〇五六万四九二四円

(二) 減算項目

(1) 事業税の損金算入 二二万二一五〇円

(2) 固定資産税等の損金算入 四七万九四三一円

(3) 借地権等売買経費の損金算入 三九七万七六三〇円

(4) 増加した経費の損金算入 八二三万九四六四円

(5) 非収益事業への寄付金とみなされる額の損金算入 八六五二万一三二五円

控訴人の申告に係る所得金額七三九万二四六六円に(一)の加算項目の金額を加算し、(二)の減算項目の金額を減算して、所得金額は六七九五万七四〇〇円となり、本件更正において認定した所得金額六七四二万三七九〇円を超えるから、本件更正及び本件賦課決定は適法である。

三  抗弁に対する認否

1  抗弁1項のうち、控訴人が本件地代収入を収受したことは認めるが、乙土地の貸付けは、法人税施行令五条一項五号への「主として住宅の用に供される土地の貸付業」に該当しないとの主張は争う。

幸江は、筒井建物を、居住の用として自ら使用するとともに、その一部を筒井商店に賃貸していたが、筒井建物の総床面積一二〇坪のうち六五坪以上が居住の用に供されている。

したがって、本件地代収入は、課税の対象とはならない。

2  抗弁2項の主張は争う。

控訴人が幸江とバウルーから借地権付建物を買い取り、これを島崎工務店に売り渡したという一連の取引が、たとい幸江とバウルーから借地権付建物を買い取った島崎工務店と控訴人が契約更改をしたことと経済的実質が同じであるとしても、税法上格別の規定がないのに、実質課税の原則を理由に、この経済的実質に基づいて、控訴人と島崎工務店との間に私法上有効に成立している売買契約を否認して、更改と認定することは、恣意的な税法の解釈であって、許されない。法が認めているのは、実質所得者課税の原則(法人税法一一条)であって、実質課税の原則ではない。

3  抗弁3項については、被控訴人の主張を前提にする限りは、その計算自体はこれを認める。

第三本件差額収入についての被控訴人の予備的主張とこれに対する控訴人の答弁

一  被控訴人の主張

本件土地上の借地権付建物に関する一連の売買取引にあっては、控訴人が幸江及びバウルーから借地権付建物を買い取り、これを直ちに島崎工務店に売却しているのであるから、売買の目的物である借地権付建物に係る旧借地権が混同によって消滅したものと見ることは、取引の実態にそぐわないというべきである。

しかし、仮に、右一連の売買取引について、〈1〉控訴人が幸江及びバウルーから借地権付建物を買い取った瞬間に幸江らの借地権が消滅し、〈2〉しかる後に、控訴人が島崎工務店に対して新たに土地譲渡類似借地権(土地所有者が土地の価額の一〇分の五以上の権利金を収受して設定する建物又は構築物の所有を目的とする借地権)の設定をしたものと解する余地があるとしても、この場合における本件事業年度における法人税額は二七四一万八五〇〇円となり、本件更正に係る法人税額を上回る。

二  当事者双方の主張

この点についての当事者双方の主張は、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりである。

三  付加する主張

1  控訴人の主張

幸江及びバウルーの控訴人に対する従前の借地権は非堅固建物所有を目的とするものであり、その割合は更地価格の七割であるが、新たに島崎工務店に対して設定した借地権は堅固建物所有を目的とするものであって、その割合は八割である。

したがって、幸江らに賃貸していた当時に控訴人の底地権に属していた更地価格の一割に相当する権利は、島崎工務店に借地権が設定されることにより、初めて控訴人の権利から島崎工務店の借地権部分へと移行したことになり、この部分は、控訴人の長期にわたる保有期間中に他律的要因によって生じた資産の値上がり益(キャピタル・ゲイン)であって、課税の対象からはずされるべきものである。

島崎工務店への借地権(八割)設定の対価三億七〇〇〇万円によって計算すると、本件土地の更地価格は四億六二五〇万円であり、その一割は四六二五万円である。

借地権売買差益計上もれは、被控訴人主張の六八六〇万円から右四六二五万円を差し引いた二二三五万円となる。

2  被控訴人の反論

被控訴人は、税務上の一般的評価基準たる借地権割合(これは、特定の借地権に係る個別的な借地条件の相異によって変動をきたすものではない。)を適用して控訴人の短期所有借地権に係る譲渡収益の額を算定しているのであるから、控訴人と島崎工務店との間において非堅固建物所有から堅固建物所有へと賃貸借の目的が変更されたとしても、このこと自体が税務計算上の借地権割合に消長をきたすことはない。

控訴人の主張は失当である。

第四証拠

証拠の関係は、原審及び当審記録中の証拠目録記載のとおりである。

控訴人の主張は失当である。

理由

一  請求原因1、2項の事実は、当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない乙第1号証の二ないし四、第二、第三号証の各二、三、第八号証、第一一号証、第一三号証、第二一号証、第二三ないし第二六号証、甲第八ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし一五、第一二号証の一ないし七、原本の存在と成立に争いのない乙第一四ないし第二〇号証、第二二号証、第二七、第二八号証、原審証人筒井歳雄の証言によって成立が認められる乙第一号証の一及び五ないし七、弁論の全趣旨によって成立が認められる乙第二、第三号証の各一、原審証人筒井歳雄及び同筒井幸江の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  控訴人の事業内容等

控訴人は、江戸時代に開山された浄土宗の寺院を母体として、昭和二七年九月二四日に設立された宗教法人であり、東京都台東区鳥越二丁目一四番五号に主たる事務所を設置している。

控訴人は、主たる事務所の周辺に土地を所有し、その土地の一部を賃貸しているほか、控訴人所有に建物を賃貸するなどして賃貸料収入を得ている。控訴人の確定申告書によれば、本件事業年度における不動産賃貸収入は、別紙一記載のとおりである。

2  乙土地の賃貸借

(一)  控訴人は、建物の所有を目的として、昭和一二年頃から乙土地を筒井森栄(幸江の父親。昭和五三年に死亡。以下「森栄」という。)に賃貸していた。

森栄は、乙土地に木造建物二棟を建築し、ハンドバッグ、鞄、小物袋類の製造販売業を営んでいた。森栄は、当初、右事業を個人事業として営んでいたが、昭和二九年に株式会社筒井商店を設立して、事業を筒井商店に引き継ぎ、その後は法人の事業として営業していた。

昭和六一年当時、筒井商店の事業規模は、年商約五億円で、従業員は、臨時雇いを含め、乙土地上の本社事務所に一五名、山形工場(山形県白鷹町)に三五名、合計五〇名が勤務していた。

(二)  乙土地上の木造建物二棟のうち一棟は平屋建で、他の一棟は二階建であったが、昭和三七年に平屋建の建物を二階建にする等の増改築が行われた。

増築後の二棟の建物については、昭和三七年一二月二〇日及び同月二五日にそれぞれ増築変更登記がされたが、この変更登記後の建物の構造及び床面積は、次のとおりである。

(1) 家屋番号九番五の一の建物は、木造瓦葺二階建で、床面積は一階一〇六・〇四平方メートル、二階九七・七八平方メートル、合計二〇三・八二平方メートルである。

(2) 家屋番号九番五の二の建物は、木造瓦葺二階建で、床面積は一階一〇二・八七平方メートル、二階九〇・七四平方メートル、合計一九三・六一平方メートルである。

(三)  家屋番号九番五の一の建物は、森栄とその妻の富子の共有となっていたが、昭和五三年一二月に森栄の持分を幸江が相続によって取得し、昭和六〇年二月に富子の持分も贈与によって幸江が取得した。

家屋番号九番五の二の建物は、森栄の所有であったが、昭和五三年一二月に幸江がこれを相続した。

昭和五三年一二月の森栄の死亡に伴い、乙土地の借地権は幸江が承継した。

(四)  控訴人と森栄との乙土地の賃貸借契約は、期間満了の都度更新されてきたが、本件事業年度の直前においては、昭和五二年七月二九日に更新され、更新後の賃貸借の期間は昭和五二年四月一日から昭和七二年三月三一日までの二〇年間とされていた。

控訴人は、右更新に際し、当時の乙土地の更地価格の一割に相当する更新料の支払を請求したが、交渉の結果、六五〇万円を昭和五二年七月末から昭和五七年七月末まで分割して支払うことになった。

(五)  幸江は、昭和五四年に、事業用に使用していた建物部分の部屋の内部改装工事をしたが、その際、柱や土台の補強工事をした(外装工事はせず、床面積の変更もなかった。)。

控訴人は、この工事に対して、無断改造工事であるとして抗議を申し入れ、高額の改造承諾料の支払を要求した。そして、種々交渉の結果、改造承諾料として五〇万円を支払うことになった。

幸江は、同年六月、控訴人に対し、右五〇万円を支払うとともに、前記更新料の分割支払残額三九〇万円を期限の利益を放棄して一括して支払った。

3  乙土地上の建物の利用状況

(一)  家屋番号九番五の一の建物は、その全部が森栄ないし幸江から筒井商店に対して賃貸され、筒井商店の事務所、作業場、資材置場等、その事業の用に供されていた。

家屋番号九番五の二の建物は、その大部分が幸江らの家族の居宅として使用されていたが、その一部、すなわち家屋番号九番五の一の建物に隣接する三室(一階は応接室を含む二室、二階は一室、おおよその合計床面積は四七・八五平方メートル)は、筒井商店の事業の用に供されていた。応接室は来客の対応に使用し、その他の二室は、ハンドバッグ等を出荷するまでの製品及び資料の置場に使用していた。

以上の使用状況を図示すると、原判決の別紙間取図に表示したとおりである。ただし、右間取図は、設計段階の図面であるものと推測され、家屋番号九番五の一の建物の総床面積が実際とは異なっている。

(二)  右の建物の利用状況については、昭和五五年九月頃行われた控訴人に対する法人税調査の際にも確認されている。

すなわち、控訴人は、昭和五五年三月期(昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度)の法人税確定申告に当たり、乙土地及び甲土地に係る地代収入金額について、別紙二記載のとおり、非課税所得に該当するものとして、申告所得金額の計算上これを除外していた。しかし、被控訴人の所部係官が調査したところ、乙土地上の建物及び甲土地上のバウルー所有の建物は、いずれもその床面積の二分の一を超える部分が事業の用に供されていることが確認された(乙土地上の建物については、前記の利用状況と同様の状況であった。)。そこで、右調査を担当した係官から、控訴人に対し、昭和五五年三月期中において幸江及びバウルーから収受した地代の額一四七万円と幸江から収受した更新料及び建物改造承諾料の額四四〇万円との合計額五八七万円については、控訴人の収益事業に係る収益金として益金の額に算入されるべきであることが指摘され、控訴人は、昭和五五年九月二五日、被控訴人に対し修正申告書を提出した。

(三)  控訴人は、昭和五六年初め頃、幸江に対して、乙土地上の建物についての「法人税法施行令第五条第五号による賃借土地・土地上の建物の使用状況調書」の作成を依頼したが、その際、実際の利用状況に反して、居住用部分の面積が事業用部分の面積を上回っているような記載をさせ、「税金の問題があるので、税務署の係官が来た時には、居住用の面積の方が多いと答えてもらいたい」と要望した。

そして、控訴人は、右使用状況調書に基づいて、昭和五六年三月期以降の各事業年度の法人税確定申告書において、別紙三記載のとおり、乙土地に係る地代収入が非課税所得に該当する旨の申告を行っていた。

4  甲土地の賃貸借

(一)  バウルーは、昭和四七年六月二六日、甲土地所在のバウルー建物(店舗兼居宅、木造瓦葺二階建、一階四〇・一九平方メートル、二階三七・一九平方メートル、総床面積七七・三八平方メートル)を借地権付きで、その所有者岩堀とし子から買い受け、同地において、鍋、釜、食器類の製造卸業を行っていた。

控訴人とバウルーとの間の甲土地の賃貸借契約は、昭和四七年六月二六日に締結され、その賃貸借の期間は同年七月一日から二〇年間とされていた。

(二)  控訴人は、昭和五六年三月期以降の各事業年度の法人税確定申告に当たって、別紙三記載のとおり、バウルーから収受した地代の額を収益事業に係る収益金として益金の額に算入していた。

5  控訴人と幸江との間の建物の売買

(一)  幸江は、建物が老朽化したこともあって、ビルに建て替えたいと考えていたが、借地のままでは控訴人から高額の建替承諾料を要求されることが予想されたため、昭和五九年頃、株式会社東京信託コンサルタントの社長である小宮山格に依頼して、控訴人との間の乙土地の底地権の買い取りに関する交渉を行った。

しかし、控訴人は、幸江に対する底地権の譲渡を拒否し、さらに、もしも堅固な建物を建てるならば、その建替承諾料として一億円以上を支払えと要求した。

(二)  幸江は、一億円もの建替承諾料を支払った場合には、ビルの建設資金にもこと欠くこととなる恐れがあったので、借地権を譲渡して、別の土地へ移転することもやむをえないと考えて、昭和六〇年二月には台東区柳橋の土地を購入した。

幸江は、不動産業者に依頼して借地権の買い手を探すこととし、この業者から、大手マンション業者が借地権を坪当たり五〇〇万円で買いたいとの話が持ち込まれたの、控訴人に借地権譲渡の承諾を求めたが、控訴人は、「知らない人に売るとどんな建物になるか分からないから承諾できない。借地権を売るならば、買い手はこちらで探す。控訴人を通さなければ借地権の売買はさせない。」と拒否した。

そこで、幸江は、控訴人のいうがままに、控訴人に借地権を譲渡せざるをえないことになった。

(三)  控訴人は、幸江に代わる新賃借人として島崎工務店を探し出し、控訴人が幸江から幸江所有の借地権付建物を買い取り、次いで右借地権付建物を控訴人が島崎工務店に売却することにした。

島崎工務店が借地権を買い取ることを知った幸江は、坪当たり四八〇万円から五〇〇万円で売却できると考えて売買価額の交渉をしたが、控訴人は、「借地権の買取代金としては二億三〇〇〇万円しか出せない。」との一点張りであって、結局、幸江はこの金額で売却することとした。

(四)  右借地権付建物の売買交渉は、昭和六一年三月下旬頃に成立したが、売買価額を低く買いたたかれたと考えた幸江は、島崎工務店に対して、直接、立退料として三〇〇〇万円を支払ってもらいたいと要求した。その結果、島崎工務店から幸江に対し、「引越費用」として二〇〇〇万円を支払う旨の合意が成立した。

なお、右金員は、引越完了時に支払われることになっていたが、実際には、一〇〇〇万円しか支払われなかった。

(五)  控訴人と幸江との間の借地権付建物の売買契約は、昭和六一年四月三日に、島崎工務店の事務所で、島崎工務店の代表者や小宮山らを立会人として締結され、同日付けの売買契約書が作成された。

売買契約の骨子は次のとおりである。

(1) 売買代金は二億三〇〇〇万円とし、契約締結時に手付金又は内金として二三〇〇万円を支払い、残金二億〇七〇〇万円を昭和六二年二月末日までに支払う。

(2) 建物の所有権は、幸江が残金を受領すると同時に、幸江から控訴人に移転する。

(3) 建物の所有権移転登記に代わって、建物の滅失に関する一切の書類を幸江から控訴人に引き渡すことにより、幸江の所有権は消滅する。

(六)  右の売買代金は、次のとおり支払われた。

(1) 昭和六一年四月三日に手付金二三〇〇万円が島崎工務店取組の銀行保証小切手をもって、島崎工務店の事務所で支払われた。

(2) 昭和六一年一〇月三〇日に、中間金二三〇〇万円が島崎工務店振出の小切手をもって支払われた。

(3) 昭和六二年二月二八日に、残金一億八四〇〇万円が、控訴人の事務所において、島崎工務店取組の銀行保証小切手をもって支払われた。

6  控訴人とバウルーとの間の建物の売買

(一)  バウルーは、事情があって甲土地の借地権を譲渡しようと企図し、控訴人に借地権を譲渡した場合の名義変更に関して相談したところ、控訴人は、借地権を譲渡するのはかまわないが、借地人が誰になっても良いという訳にはいかないので、控訴人で買って売り先を探すから、売るならば控訴人に売ってほしい、との返事であった。

そこでバウルーは、借地権付建物を控訴人に売却することとした。

(二)  控訴人とバウルーとの間の借地権付建物の売買契約は、昭和六一年三月二五日に、島崎工務店の事務所で、島崎工務店の代表者や小宮山らを立会人として締結され、昭和六一年四月三日付けの借地権付建物売買契約書が作成された。

売買契約の内容は、売買代金四二〇〇万円の全額が昭和六一年三月二五日に支払われ、建物の引渡が同年四月三日とされていたことを除いては、幸江との間の売買契約と同様のものである。

右売買代金は、島崎工務店取組の銀行保証小切手と現金によって支払われた。

(三)  控訴人とバウルーは、昭和六一年四月三日、バウルー建物について、期間を同月三〇日までとする建物一時使用賃貸借契約を締結し、バウルーは、控訴人に対し、右契約に基づいて、建物を明け渡した四月三〇日までの賃料として二〇万円を控訴人に支払った。

7  控訴人と島崎工務店との間の取引

(一)  島崎工務店は、不動産仲介業者から借地権の売り物があるとの話を持ち込まれたことが契機で、控訴人との間の取引をすることになった。

控訴人と島崎工務店は、昭和六一年四月三日、筒井建物及びバウルー建物を借地権付きで三億七〇〇〇万円で売買する旨の契約を締結し、同日付けの売買契約書及び覚書を作成した。

(二)  右売買契約の骨子は、次のとおりである。

(1) 売買代金は、三億七〇〇〇万円とし、契約締結時に、手付金又は内金として七四〇〇万円を支払い、残金二億九六〇〇万円は昭和六二年二月末日までに支払う。

(2) 建物の所有権は、控訴人が残金を受領すると同時に、控訴人から島崎工務店に移転する。

(3) 建物の所有権移転登記に代わって、建物の滅失に関する一切の書類を控訴人から島崎工務店に引き渡すことにより、控訴人の所有権は消滅する。

(4) 本契約の売買代金には、借地権付建物の売買代金のほかに、次の代金も含まれる。

ア 条件変更料、堅固な建物の建替承諾料(契約期間四〇年間)

イ 名義書替料(島崎工務店の新建築物の一回の売買による名義変更料)

(5) 本件引渡時に新しい土地賃貸借契約を締結する。土地の賃貸料は引渡時に協議する。堅固な建物の条件で、契約期間は、四〇年間とする。

(6) 島崎工務店が新建築後、島崎工務店所有の建物の第三者への譲渡については名義変更料は無償とする(複数の場合も可とする。)。

(三)  右の売買代金は、次のとおり支払われた。

(1) 昭和六一年三月二五日に手付金として、四二〇〇万円が支払われた。

右金員は、控訴人がバウルーに対して支払うべき借地権付建物の売買代金として、バウルーに交付された。

(2) 同年四月三月に手付金として三二〇〇万円が支払われた。

右金員は、島崎工務店取組の銀行保証小切手二三〇〇万円と現金九〇〇万円をもって支払われ、小切手は幸江に交付され、現金九〇〇万円は控訴人が受領した。

(3) 同年一〇月三〇日に中間金として二三〇〇万円が支払われた。

右金員は、島崎工務店振出の小切手をもって支払われ、幸江に交付された。

(4) 昭和六二年二月二八日に残金として二億七三〇〇万円が支払われた。

右金員は、島崎工務店取組の銀行保証小切手をもって支払われ、額面一億八四〇〇万円の小切手は幸江に交付され、その余の小切手(額面合計八九〇〇万円)は控訴人が受領した。

(5) このように、控訴人は、島崎工務店から、昭和六一年四月三日に現金九〇〇万円、昭和六二年二月二八日に小切手八九〇〇万円の合計九八〇〇万円の金員を受領した。

(四)  幸江は、昭和六二年二月二八日に、筒井建物二棟を明け渡した。そして、同日付けで、幸江から控訴人宛の「建物引渡証」が作成され、また、控訴人から島崎工務店宛の「建物引渡証」(バウルー建物を含む三棟の建物についてのもの)が作成された。

幸江と控訴人との間の売買契約が締結された昭和六一年四月三日から右明け渡しまでの乙土地の地代は、従前の地代額に基づいて、幸江が控訴人に支払った。

右建物の引渡に伴い、控訴人と島崎工務店との間において昭和六二年二月二八日付けで土地賃貸借契約書が作成され、同年三月一日以降においては、島崎工務店が本件土地の地代を支払うことになった。島崎工務店は、本件事業年度においては、三月分の地代として一六万六〇〇〇円を支払ったが、そのうち乙土地分は一二万円である。

8  島崎工務店のした建物の売買

(一)  島崎工務店は、昭和六二年三月二六日に控訴人から買い受けた筒井建物及びバウルー建物を取り壊し、本件土地上に昭和六三年二月二二日、三棟の建物を新築した。すなわち、〈1〉家屋番号九番五の一、店舗・事務所・居宅、鉄筋コンクリート造陸屋根五階建、総床面積三七三・〇七平方メートル、〈2〉家屋番号九番五の二、車庫・事務所・居宅、鉄筋コンクリート造陸屋根五階建、総床面積三八六・二〇平方メートル、〈3〉家屋番号九番五の三、事務所・居宅・車庫、鉄筋コンクリート造陸屋根五階建、総床面積三八六・二〇平方メートルである。

(二)  島崎工務店は、右建物のうち、〈1〉の建物を昭和六三年に借地権付きで丸東に売却し、同年二月二三日に所有者を丸東とする所有権保存登記がされた。

また、島崎工務店は、右〈3〉の建物を平成元年一月に借地権付きでトーワ建工に売却し、同年三月一四日に所有者をトーワ建工とする所有権保存登記がされた。

右〈2〉の建物は島崎工務店が所有している。

(三)  控訴人と丸東との間では、昭和六三年一一月三〇日付けで、控訴人とトーワ建工との間では平成元年二月二八日付けで、それぞれ土地賃貸借契約書が作成されたが、いずれも、堅固な建物所有の目的で賃貸すること、賃貸借の期間は昭和六二年三月から四〇年間とすることとされている。丸東及びトーワ建工から控訴人に対して借地権譲渡についての承諾料を支払う旨の条項はない。右譲渡については、島崎工務店も控訴人に対し承諾料を支払っていない。

以上の事実が認められる。

甲第一三号証、第一五号証及び原審証人小宮山格の証言中には、筒井建物の使用状況(事業用の部分と居住用の部分の各面積)について、右認定に反する部分があるが、採用することができない。

他に、右認定に反する証拠はない。

三  宗教法人が営む不動産貸付業に係る課税については、以下のとおり定められている。

1  宗教法人を含む公益法人等については、収益事業を営む場合に限り、法人税を納める義務があるとされ(法人税法四条一項)、公益法人等の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得及び清算所得については、それぞれ各事業年度の所得に対する法人税及び清算所得に対する法人税を課さないと定められている(同法七条)。

収益事業とは、「販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるものをいう。」とされ(同法二条一三号)、法人税法施行令五条一項は、不動産貸付業が収益事業に含まれることを定め(五号)、また、その事業には、「その性質上その事業に附随して行われる行為を含む。」と定めている。

2  右施行令五条一項五号は、不動産貸付業のうちイからチに掲げるもの以外のものを収益事業とする旨定め、へにおいて、「主として住宅の用に供される土地の貸付業で、その貸付けの対価の額が低廉であることその他の大蔵省令で定める要件を満たすもの」と定めている。

3  右の大蔵省令で定める要件とは、「貸付けの対価の額のうち、当該事業年度の貸付期間に係る収入金額の合計額が、当該貸付けに係る土地に課される固定資産税及び都市計画税額で当該貸付期間に係るものの合計額に三を乗じて計算した金額以下であること」であるとされている(法人税法施行規則四条の二)。

また、成立に争いのない乙第四号証の五によれば、法人税基本通達15-1-20(非課税とされる住宅用地の貸付け)において、被控訴人主張のとおり定められていることが認められる。

4  成立に争いのない乙第四号証の六によれば、法人税基本通達15-2-11(借地権利金等)及び15-2-10(収益事業に属する固定資産の処分損益)において、公益法人等が固定資産である土地又は建物の貸付けをしたことにより収受する権利金その他の一時金の額の取扱いについて、被控訴人主張のとおり定められていることが認められる。

四  本件地代収入について

前記認定の事実によれば、幸江は、筒井建物の総床面積の二分の一を超える部分を事業用として使用していたのであるから、控訴人の幸江に対する乙土地の賃貸は、「主として住宅の用に供される土地の貸付業」には該当しないものである。

また、島崎工務店の乙土地の賃借が、住宅の用に供するためであったことを窺わせる証拠はなく、右賃借は、事業の用に供するものであったと推認することができる。

したがって、本件地代収入一四四万円は、収益事業に係る収益の額として、本件事業年度の益金の額に算入されるべきものである。

五  本件差額収入について

1  控訴人と島崎工務店との間の借地権付建物売買契約書においては、本件一時金三億七〇〇〇万円は売買代金であるとされている。これを文言どおりに解すれば、本件一時金は、建物の売買代金と借地権を新たに設定した対価(権利金)であるということになる。

しかし、前記認定の控訴人のした本件土地上の借地権付建物に関する一連の取引を総体的・実質的に見ると、これをその法形式どおりに、控訴人が幸江及びバウルーから借地権付建物を買い取った時点で幸江らの借地権は混同によって消滅し、その後控訴人が島崎工務店に対して新たに土地譲渡類似借地権を設定をしたものと解するのは、形式的にすぎるものであって、取引の実態に沿わないものというべきである。

2  すなわち、控訴人と幸江及びバウルーとの間の契約並びに控訴人と島崎工務店との間の契約は同日に行われていること、控訴人の幸江及びバウルーからの買取代金は島崎工務店がその資金によって直接幸江及びバウルーに支払い、控訴人は本件差額収入に相当する金額だけを受領したものと実質的には変わらないこと、幸江は島崎工務店から直接立退料の支払を受けていること、その他前記認定の一連の取引の契機・経過等によれば、控訴人は形式的に契約の当事者として幸江及びバウルーと島崎工務店との間に介在することになったものにすぎず、実質的には、一連の取引は、幸江及びバウルーから島崎工務店への借地権付建物の譲渡であると見ることができる。

そして、右一連の取引の主眼は、本件土地の賃貸借契約の内容を変更して、島崎工務店が新たに賃借人となり、筒井建物及びバウルー建物は取り壊し、堅固な建物を新築してこれを借地権とともに第三者に譲渡することを控訴人が承諾することにあったと解することができる。

控訴人と島崎工務店との間の売買契約書に、売買代金には条件変更料(堅固な建物に建て替える承諾料)及び名義変更料(島崎工務店が新築する建物を一回に限り売買する場合の名義変更料)を含む旨が明記されていることも、右の結論を裏付けるものである。

3  そうすると、本件一時金三億七〇〇〇万円のうち、借地権付建物の譲渡代金は幸江及びバウルーが受領した二億七二〇〇万円であり、その余の本件差額収入九八〇〇万円は、堅固な建物を建築するための承諾料及び島崎工務店が丸東及びトーワ建工に対して借地権を譲渡する場合の名義変更料であることになる。

4  したがって、本件差額収入は、収益事業である不動産貸付業に係る収益の額に含まれることになる。これを非課税にすべき合理的根拠はないものというべきである。

なお、法人税基本通達15-2-11の(1)によれば、土地譲渡類似借地権を設定する場合におけるその貸付けにより収受する権利金その他の一時金の額は、「収益事業に属する固定資産の処分損益(法人税基本通達15-2-10)」に係る取扱いによることになり、一定の場合にはその損益を収益事業に係る損益に含めないことができることとされているが、以上述べたところによれば、本件差額収入は、土地譲渡類似借地権を設定する場合におけるその貸付けにより収受する権利金その他の一時金の額であるということはできず、法人税基本通達15-2-11の(2)にいう「土地若しくは建物の貸付けに係る契約の更新又は更改により収受するいわゆる更新料等の額」であると見るのが相当である。したがって、法人税基本通達上も、本件差額収入は、収益事業に係る収益として取り扱われることになると解される。

六  控訴人は、本件地代収入及び本件差額収入が本件事業年度の所得金額に加算されるべきことを争っているが、その余の被控訴人主張の加算項目及び減算項目については争わず、被控訴人の主張を前提とする限り、所得金額の計算が被控訴人の主張するとおりであることは認めている。

したがって、本件事業年度における控訴人の所得金額は六七九五万七四〇〇円となり、本件更正における所得金額六七四二万三七九〇円を上回るものである。

結局、本件更正及び本件賦課決定は適法というべきである。

七  以上述べたとおり、控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙橋欣一 裁判官 矢崎秀一 裁判官 及川憲夫)

別紙一

不動産賃貸収入に係る課税・非課税の区分(控訴人の確定申告)

別紙二

不動産賃貸収入に係る課税・非課税の区分(控訴人の確定申告)

別紙三

不動産賃貸収入に係る課税・非課税の区分(控訴人の確定申告)

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